擬人化作戦で乗り切る、ある介護の朝

介護の知恵袋

介護というと、「きつい」「つらい」「暗い」といったイメージがついて回りがちです。
でも、考え方ひとつで、思わず笑えてしまう瞬間も生まれます。
これは、私がときどき使っている“擬人化作戦”のお話です。

水疱太郎との出会い

ある朝、母の軟便がひどく、ハンドシャワーでお尻をじゃぶじゃぶと洗っていたときのことでした。
汚物まみれのお尻の片側に、キラキラしたゼリーのようなものを見つけたのです。

「え? これって水疱?」「とうとう母のお尻にも!」
一瞬ショックを受けましたが、次の瞬間、その水疱に「水疱太郎」と名前をつけ、脳内で勝手に会話を始めていました。

水疱太郎
「はじめまして。わたくし水疱太郎と申します。このたび、お母さまのお尻に参りまして、しばらく滞在させていただこうかと……」


「いやいや、困ります! 今すぐ母のお尻から出て行ってください!」

水疱太郎
「ええ? せっかく来られたのに、もう少し居させてくださいよ」


「とにかく、母のお尻は間に合ってますから(?)、さっさとお引き取りください!」

そうして水疱太郎に悪態をつきながら、訪問看護師さんに緊急連絡。
処置の方法を教えてもらい、ワイワイ叫び続けている水疱太郎をガーゼで覆って“蓋”をしました。

水疱太郎との別れ

その日はデイサービスの日でした。
最初は休ませようかとも思いましたが、訪問看護師さんから
「デイサービスに看護師さんがいらっしゃるので、診てもらった方がいいですよ」
と勧められ、母を連れて行くことにしました。

今朝の出来事を一通りスタッフさんに説明し、注意をお願いして帰宅。
それでも、「水疱が潰れていなければいいけれど……」と落ち着きません。

やっと迎えの時間になり、急いでデイサービスへ行くと、スタッフさんから
「お尻はきれいでした。水疱があったような跡もありませんし、潰れて液が出た様子もありませんよ」
とのこと。

安心した反面、「あの朝の大騒ぎは何だったのだろう」と拍子抜け。
証拠に写真を撮っておけばよかった、と思わず苦笑してしまいました。

でも、水疱太郎は音もなく、痕も残さず去っていってくれたのです。
心の中でそっとつぶやきました。

「水疱太郎、旅立ってくれてありがとう。
ひどいことばかり言って、ごめんね」

──ところがその3日後の朝。
再び、母のお尻に水疱が登場してしまいました。

今度の水疱はなかなかの居座りタイプで、
3日たった現在も、母のお尻に元気に滞在中です。(笑)