父の難聴と母の心──すれ違いをつなぐ補聴器との攻防戦

介護の知恵袋

父は50代半ば頃から難聴が進み、特に右耳の聞こえが悪くなりました。職場では「左側から声をかけてあげて」と周囲が理解してくれていたそうですが、家庭では状況が少し違いました。

父の難聴と、母のさみしい気持ち

ちょうど同じ頃、母には認知症の兆候が出始め、説明しても理解に時間がかかったり、同じ質問を繰り返したりするようになりました。

そんな母が父に話しかけても、難聴のせいで返事をせず、あるいは曖昧に誤魔化すことが増えていきました。母にしてみれば、「ぞんざいに扱われた」と受け止めてしまっていたかもしれません。表面上は何とかやり過ごしていても、母の胸の内は傷ついていたのだと思います。

補聴器を買ったのに使わない父

ある時、父が通販番組で「テレビの音がクリアに聞こえる集音器」を見て買おうとしているのを知り、「今がチャンス!」と私は補聴器の購入を勧めました。結果、無事に補聴器をつけてもらうことに成功しました。

ところが、使うのはテレビを見る時だけ。普段つけない理由を聞くと「不自由がないから」とサラリ。

さすがに私も堪忍袋の緒が切れました。

「私やお母さんとの会話は、聞く必要がないってこと?」
「コミュニケーションが取れないのは“不自由”じゃないの?」
「お母さんみたいに私まで適当にあしらえると思わないで!」

図星だったのでしょう。父はショックを受け、その後は素直に常時つけるようになりました。

曖昧に逃げる父と、逃さない娘

とはいえ、現在も風呂上がりから就寝までの間は補聴器を外しています。「耳垢が湿っているから壊れる」と言い訳していましたが、本当かどうかは不明です。

補聴器がない時間帯は、こちらもわざとハッキリ・大きめの声で話します。すると父は「聞こえてるから、もう大声はやめてくれ!」と苦情。でも、普通の声だと返答がズレるので、やめられません。

例えば、「このおかず、明日も食べる?食べない?」と聞いても、「いいね〜」とピント外れな返事が返ってきます。

そこで、「(大声で)食べる? 食べない?」と再質問すると、しぶしぶ「食べます…」と嫌そうな顔をしながら答える、そんな日々です。

もし母がこれをされたら、しょんぼりしてしまったでしょう。でも今は家事の中心が自分。あいまいな返事では困るので、そこは容赦しません。

補聴器の状態が悪化していた理由

最近、補聴器をつけていても聞こえにくそうにしているのが気になり、左耳まで悪くなったのではと心配になりました。電池交換なども確認したものの改善せず、不安が募りました。

調べるうちに、補聴器は「定期的に店舗でのメンテナンスが必要」だと知り、急いで購入店に連れて行きました。

すると、なんと購入から丸2年間、一度もメンテナンスを受けていなかったことが判明。補聴器の状態はかなり悪化していました。

お店の方にも「2ヶ月に1度はメンテナンスに来てくださいね」としっかり釘を刺され、父はその場で「劇的に聞こえが良くなった!」と大喜び。

……とはいえ、連れて行くこちらとしては「2ヶ月に1回かぁ……正直ちょっと面倒くさいな」と思ってしまうのでした。